「喫煙は緩慢なる自殺」「喫煙者に自殺する人が多い。」ー悲しいけれども喫煙と自殺の切っても切れない関係
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ナレーター:しかし政治の世界では、イギリスでもアメリカでも、タバコ反対のプラカードを掲げる人はいませんでした。
しかし1976年、ワシントンで変化が起こります。
ジミー・カーター:私ジミー・カーターは、アメリカ大統領の任務を誠実に果たすことを誓います。
ナレーター:カーター氏は、タバコ産業を支持したおかげで大統領に選ばれました。
しかし、厚生長官にジョセフ・カリファーノ氏を選び、これが後にあだとなります。
ペプルズ:カリファーノ氏は、すい星のように現れたのです。
ナレーター:カリファーノ氏です。
カリファーノ:タバコ業界は、わたしを危険な存在と考えたんです。
ペプルズ:彼は、元喫煙者にしかできないやり方でキャンペーンを展開したんです。
ナレーター:カリファーノ氏がタバコ反対運動を政策の中心に据えたのは、次のようないきさつがあったからです。
カリファーノ:うちの省に勤めてくれる職員を探して医者150人ほどと面接したんですが、だれもが「健康の促進と病気の予防を真剣に考えるなら、喫煙についてなんとかしないかぎり無理だ」と口をそろえました。
ナレーター:タバコ産業の反応は素早いものでした。
カリファーノ:タバコ業界は、わたしがタバコの喫煙に関し演説をすると聞きつけると、前もってその内容のコピーを送ってくれと言ってきたんです。タバコに関する政府の声明に関しては、いつもあらかじめ内容を伝えてもらっていたというのです。そこでわたしは「そういう時代はもう終わったんだ」と言ったんですが、今度はホワイトハウスからコピーを要求してきたのには驚きました。
ナレーター:元ホワイトハウスの保健問題顧問、ボーン氏です。
ボーン:大統領が自分自身の支持基盤のことを心配しているときに、思い切ったことをしてだいじょうぶかと心配したのです。
ナレーター:大統領顧問だったボーンさんは、この演説がホワイトハウスに及ぼす影響を心配していたのです。
カリファーノ:わたしはボーンさんに「もし大統領がコピーが必要だとおっしゃるなら、電話をしてもらえればすぐにお渡しする。だが、大統領以外のどの側近にも渡すつもりはない」と言ったんです。
ナレーター:カリファーノ氏はキャンペーンを決行しました。
1978年、カリファーノ氏は「喫煙は、これまで考えられていたよりはるかに危険であったことがわかった」と発表します。
タバコ会社は、ワシントンに新しい敵が生まれたことを知ります。
カリファーノ:戦争の始まりでした。
ナレーター:タバコ協会のドゥーイヤー氏は「カリファーノ氏が大好きな遊びや酒をやめるかが見ものだ」と国民に語りかけました。
民主党幹部は、再選を果たすためにはカリファーノ氏の存在が危険だと感じ始めます。
ボーン:当時ノースカロライナ州の知事だったジム・ハント氏から電話があって、「カリファーノ氏の口をふさげないならノースカロライナの票はあきらめてほしい、と大統領に伝えてくれ」と言ってきたんです。
カリファーノ:キャンペーンを中止にするなど考えてもみませんでした。今していることは正しいのだから、時間をかければみんなにわかってもらえるだろうと思っていたのです。わたしはホワイトハウスとは政治的な観点も異なっていました。どの州の人も、我々の言っていることのほうが本当だと知っていると信じていました。肺気腫やほかの肺の病気で親族を亡くしていないアメリカ人など、ほとんどいませんでしたからね。
ジミー・カーター:アメリカには、タバコ産業に生活を頼っている家族は200万を数えるのです。
ナレーター:カーター大統領は、再選を果たすためにタバコ業界から信頼を取り戻そうと努力しましたが、業界からの圧力は大変なものでした。
ボーン:タバコ業界の態度ははっきりしていました。「カーター大統領の再選を支持するが、条件がある」というわけです。それはタバコの健康問題で厳しい路線をとらないという条件でした。
ナレーター:カリファーノ氏は解任されました。
カリファーノ:「今回の決定に関し、だれを非難するか」というのはいい質問ですね。カーター大統領がわたしを解任したのは、タバコ業界からの圧力のせいです。カーター氏も、今ならその事実を認めるんじゃないでしょうか。
ナレーター:タバコ業界は、20年にわたり科学的な研究結果と法規制を相手に闘い続け、ついには、その前に立ちはだかった政治家をも追放したのです。
反対勢力の拡大と喫煙率の低下にもかかわらず、タバコ業界は1980年代までには嵐を切り抜けます。しかしその「事実の隠ぺいと否定」の歴史はとてつもなく長いものです。